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肥満に対する正しい取り組み方とは?


肥満で悩むかたは結構多いです。特に2型糖尿病の方では肥満の方が多く、やせる必要性を頭で理解していても、やせられない人が大部分です。やせられない理由は人それぞれですが、やせる方法が分からない人や、自分の食事や運動などの生活習慣を変えられない・変えたくない人が多いように思います。ただ、指導する側も「やせてください。」「やせましょう。」ではなく、その人のどこを直せばよいかを指導するとやせ方が分かりやすく、時には驚くほど体重を落とせる人もいます。しかし、自分の習慣を変えられない・変えたくない人の場合は、やせる事の重要性を理解していないこともありますが、重要性を伝えても行動を変えることはなかなか難しいようです。

 

そもそも肥満は、BMI25以上が日本では肥満とされています。BMIは体重[kg]を身長[m]の二乗で割った値です。このBMIを基準にすると、BMI22.5-25までが死亡率が最も低いことが分かっています(ちなみに、同じBMIでは女性の方が死亡率が低いです)。肥満になると、糖尿病、高血圧、高脂血症、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)といった病気にかかりやすくなります。

 

次に肥満に対する取り組みとして、食事、運動について紹介していきます。説明が長くなりますので、結論を先に書くと、

  1. 摂取カロリーの目標は800−1000kal/日、糖質と動物性脂肪は控えてタンパク質を多く摂る、早食いせずによく噛む
  2. 1回30分以上、週5日以上運動し、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせる

となります。以下が説明です。

 

食事ですが、やせるためにはカロリーを制限して、余っている脂肪を燃焼させる必要があります。カロリーは生きているだけで消費する基礎代謝と運動などの活動で消費するカロリーに分けられます。

 

摂取カロリーの目標は800−1000kal/日です。ポイントは、カロリーをより低くしても、代謝が低下するためにやせる量は変わらず、かえって害が出てしまうことです。極端に少ないカロリーでは一時的な体重減少は起きてもリバウンドしやすく、脱毛や肌荒れ、月経異常、胆石のリスクが増えるなど体の色々な問題が生じてしまいます。今のところ、間欠的な断食の効果ははっきりしません。

 

食べ物の種類としては、糖質(お米やパン、麺類などの炭水化物から食物線維を除いた成分)と動物性の脂肪は控えた方がよいです。糖質は分解されるとグルコースとなり、血糖値を上げて、膵臓からのインスリン分泌を促し、脂肪を増やす作用があります。早食いで血糖値を急激に上げるとインスリンも沢山出ることになるので、太りやすくなります。よく噛むようにした方が血糖の上昇は穏やかです。お米やパンも玄米や全粒粉のものにするとよいでしょう。麺類はソバの方が血糖値は上がりづらいです。フルーツも糖質がありますが、ビタミンなどの他の栄養が豊富であり、種類によって糖質の量にバラツキがあるため、一概にやめなくても良いと思われますが、摂り過ぎないようにした方がよいでしょう。動物性の脂肪は悪玉コレステロールを上昇させるということもありますが、インクレチンというホルモンを介して脂肪を増やす作用があります。例えば、スープにラードを使ったチャーシュー麺やカレーなどをよく噛まずに食べると、とても太りやすいことがよく分かると思います。後述しますが、筋肉が増えるためにはタンパク質が必要なので、タンパク質は多めに摂取するようするのがよいでしょう。

 

運動では、それ自体でのカロリー消費以外に、筋肉を付けることで基礎代謝量が増えて、やせやすくなります。タンパク質は魚、肉、大豆に多く含まれています。ただし、肉はタンパク質が豊富ですが、動物性の脂肪が多くならないように赤身を選ぶようにした方がよいです。牛乳もタンパク質がありますが、低脂肪や無脂肪を選ぶと良いでしょう。運動だけではすぐにやせないのですが、太りづらい体を作ることができます。運動は1回30分以上、週5日以上で、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることが大切です。ポイントは、ハードな運動は不要で、そもそも運動なしでも食事だけでやせることは充分可能とということです。もちろん、膝や腰が悪い方でも、筋力トレーニングはできることもあると思われます。プールが苦手でなければ、浮力で関節の負担が少なく済んで、さらには有酸素運動も筋力トレーニングもできるので最適です。

 

最後に、薬物治療による減量についてですが、最近GLP-1ダイエットなるものが話題になっています。インクレチンと呼ばれる消化管から出るホルモンの一つなのですが、これには食欲を抑える働きや脂肪の分解作用などがあります。本来は糖尿病の治療薬ですが、海外では肥満の治療に使われています。1日1回または週1回の注射製剤があり、副作用は吐き気、嘔吐が出やすいです。20週(5ヶ月)の海外の試験では、体重減少は概ね3−7kg程度でした。長期的にみると太りづらい効果もあります。これまで吸収が悪いために内服薬での利用が難しかったのですが、セマグルチドという名前の内服薬(注射製剤もあり、同等の効果とのこと)が開発されており、日本でも承認申請がなされているため、近いうちに内服薬が登場するものと思われます。副作用以外の問題点としては、高価が薬のため、自費診療となる日本では薬代の負担が大きくなります。

 

おまけの話ですが、よく高齢者でやせてしまう方がいます。筋力も低下して、転びやすくなっています。様々な理由でなってしまいますが、胃腸の調子が悪くて食が細くなったり、歯や嚥下に問題を抱えて摂取カロリーが低下している場合があります。結果として、カロリー不足で筋肉や脂肪を分解しているため、食事面では少ない量でもカロリーが豊富な植物性の油をバランスよく摂取し、良質なタンパク質も摂りながら、可能な範囲で筋力トレーニングをすることが良いのではないでしょうか。もちろん、原因に対する治療も重要です。